第12章 愛の夢
『覚えてるか、智。
そのスーツ、いつだったかお前と一緒にデザインした、アレだよ?
お前には内緒で、仕立ててみたけど、なかなかイケてんだろ?
きっとお前に似合うよ。
だからさ、それ着たとこ、写メ送れよ?
但し、翔さんとのツーショットは勘弁だからな?
智、愛してたよ 潤』
何これ…
相変わらず一方的なんだよ、潤は…
写メ送れっていう割には、アドレスの一つも書いてないじゃん…
癖のある字で綴られた短い文章。
それなのにどうしてこんなにも胸が痛いの?
どうして涙が溢れて来るの?
“愛してる”…何度となく伝えてくれた言葉は、“愛してた”に形を変えた。
過去形になった言葉が、俺達の“愛”が終わったことを告げる。
「俺も…俺も愛してた…」
嘘じゃない。
ほんの一瞬でも、潤を愛したのは嘘じゃない。
交わした言葉も、重ねた身体の温もりも、潤と過ごした時間は、決して偽りなんかじゃなかった。
そこにはちゃんと”愛”があった。
そんな簡単なことに、俺は漸く気付いたんだ。
「ありが…と、潤…ごめ…」
いつしか言葉は嗚咽に変わり、気が付けば俺は声を上げて泣いていた。
零れ落ちる涙は、握り締めた小さなメモ用紙にいくつもの染みを作った。
俺はその小さな紙を、綺麗に畳んで財布のポケットに仕舞った。