第12章 愛の夢
「俺ね、見合いしたんだ…親父の決めた相手と…」
それは知ってる。
結婚、するんでしょ?
「凄く可愛い娘だったよ。笑顔がどことなく智君に似ててさ…。一緒にいて穏やかな気持ちになれたんだ」
そんな話、聞きたくない。
俺は布団の中で耳を塞いだ。
それに気付いたのか、翔君の手が俺の髪を撫でた。
「でもさ、断ったよ?」
「…なんで? 結婚すればいいじゃん…。俺みたいに汚い人間よりも、うんと綺麗なその娘と結婚でも何でもしちゃえばいいじゃん!」
俺は勢い良く身体を起こし、パイプ椅子に座る翔君に掴みかかった。
思いもがけず大きな声が出たのと、飛び起きた衝撃とで、目の前が一瞬暗くなった。
「出来るわけないでしょ? だって俺が愛してるのは、今も昔も、変わらず智君だけなんだから…」
「だって断ったりしたら、またおじさんが…」
「親父にはちゃんと話をしたよ? 俺は智君以外、愛する事は出来ないってね?」
あの厳しい人が許してくれる筈なんてない。
「…嘘…嘘だよ、そんなの…嘘、嘘…!」
俺は握り拳を何度も何度も翔君の胸にぶつけた。
翔君はそれを、ただ黙って受け続けた。
そして言ったんた…
「潤がね、親父に頭下げたんだって…」
どうして?
どうして潤が俺達の為に頭を下げる必要があるの?
抱えきれない疑問ばかりが頭の中を駆け巡る。
「も、わけわかんね…」