第12章 愛の夢
俺をベッドに降ろし、翔君がナースコールをした。
数分後、女性の看護師さんが来て、俺に点滴の針を刺し直した。
「あまり動かさない様にしてくださいね」
看護師は面倒臭そうに、感情の籠らない言葉を吐き捨て、部屋を出て行った。
「なんだ、あれ? もっと言い方があるだろうに…」
ドアに向かって下げた頭を上げながら、翔君がボソッと呟く。
俺はただその背中を見つめていた。
あの日、最後に見た背中よりも、一回り大きくなった背中。
俺はその背中に縋りたくなる衝動を、布団をすっぽり被り、必死で抑え込んだ。
隣でパイプ椅子が軋む音がした。
「そのままでいいから聞いてくれる?」
翔君には見えないだろうけど、俺は布団の中で小さく頷く。
「さっきはごめん。冷静に…って思ってたけど、実際智君を目の前にしたら、冷静ではいられなくなった。ニノにも雅紀にも言われてたのに…出来なかった」
それは俺だって同じ。
翔君だけじゃない。
「智君…? 俺ね、知ってるから、全部。分かってるから…」
知ってるって、何を?
分かってるって、何が分かってるの?
「潤とのこと、知ってた。二人が付き合ってるのはニノから聞いてたし、潤からも…」
なんだ…
みんな知ってたんじゃん…
何も知らなかったのは、俺だけだったんだ…?