第11章 Amazing Grace
「君は…君も、あの子のことを?」
その言葉に、俺は廊下に踏み出した足を止めた。
「はい、好きです。…愛してます」
後ろを振り向くことなく答える。
「では何故、自分から身を引くような真似をする? 何故今更あの子を翔の元へ返そうなんて思う?」
「それは…」
言葉に詰まった俺は、キュッと唇を噛んだ。
返したくはない。
漸く手に入れたあの人を、手放したくはない。
だけど…
「第一、私にはあの子のどこにそんな魅力があるのか…さっぱり分からない。…もっとも、分かりたくもないがね」
背後でククッと笑う声と同時に、煙草を灰皿に揉み消すのが分かった。
「おじさんもあの人に会ってみれば分かりますよ。あの人の笑顔がどれだけ人を魅了するのか。俺だけじゃない筈です。翔さんだって、二宮や相葉だって、みんなあの人に…あの人の笑顔に惚れてるんです」
その笑顔を俺は奪ったんだ。
一度目は、醜い嫉妬で二人を引き裂き、
二度目は、自分の欲望のために無理矢理身体を奪った。
漸く手に入れた、そう思った時にはあの人に笑顔はもうなくて…
たまに向けられる微笑みは、どこか憐れみを含んでいて…
「俺はあの人に、心から笑っていて欲しいんです」
あの人に、本当の意味での”笑顔”を取り戻して欲しい、ただそれだけなんだ。