第11章 Amazing Grace
「頭を上げなさい」
先に沈黙を破ったのは翔のお父さんの方だった。
「君に頭を下げられる言われは、私にはない」
そうかもしれない。
でも…
「許して貰えるまで、俺は…」
そうだ簡単に引き下がるくらいなら、最初っからここには来ない。
「許すも許さないもない。これは私と翔の問題だ。君にとやかく言われる筋合いなどない」
確かに俺が何を言ったところで、この人の気が簡単に変わる訳無い、そんなこと他人の俺にだって分かっている。
でも今の俺は、例え無駄だと分かっていても、こうせずにはいられないんだ。
あの時、翔と智が別れた原因の一端は、俺にもあるから。
「俺は自分のしたこと、後悔してます。俺があの時おじさんに告げ口なんかしなきゃ…今頃2人は…」
俺は顔を上げ、翔のお父さんを見上げた。
見下ろす視線は…酷く冷たかった。
そしてシガーケースから煙草を一本取り出すと、それを指で弄びながら、
「要件はそれだけか?」
眉一つ動かすことなく、感情のない声が響いた。
俺はノロノロと立ち上がると、翔のお父さんに背を向けた。
「俺はあの時、自分の勝手な欲望のままに過ちを犯しました。なのにまた同じ過ちを犯した…。人って本当に愚かな生き物ですね…」
俺は背中に感じる視線から逃れるようにドアを開けた。