第11章 Amazing Grace
ニノのマンションに智を送った足で、俺はある場所に向った。
智が、本当に愛する人と共に生きて行く上で、避けて通ることの出来ない相手に会うためだ。
翔が一歩を踏み出せない理由も、その人の存在が大きく関わっているのは、俺も気付いていたから。
面識がないわけではなかったが、礼儀を欠いた言動を最も嫌う人だから、俺が訪ねて行くことは前もって連絡を入れておいた。
そのせいもあってか、その人は俺を笑顔で迎え入れてくれた。
「お久しぶりです」
俺が頭を下げると、銀縁の眼鏡を外し書斎机の上に置き、エグゼクティブチェアから立ち上がって俺に向かって右手を差し出した。
俺はその手をとった。
「君がわざわざ私を訪ねてくるとは、一体どんな用件かな?」
穏やかな中にたっぷりの威圧感を含んだ口調に、どうしても慣れない俺は、動揺を気取られないように、ギュッと拳を握った。
「俺がおじさんを訪ねる理由なんて、一つしかありませんよね?」
何もかも見透かしたような視線が、俺に突き刺さる。
「翔のことかね?」
「お察しの通り…話が早いですね?」
俺はその場に跪き、頭を床に着くぐらいに深く下げた。
「翔さんを解放してやってくれませんか? お願いします」