第10章 「新世界」より
雅紀との電話を切った後、俺は適当に着替えを済ませ、階下へと降りた。
ダイニングテーブルの上には、朝昼兼用の食事が二人分用意されていた。
「もう、待ちくたびれちゃったわよ?」
母さんが頬杖を付いて一つ溜息を落とした。
「ごめん、ちょっと電話してたから」
ダイニングの椅子に座った俺に、母さんが箸を出してくれた。
「あの子に電話してたの?」
箸を受け取り、手を合わせた俺に、母さんが言った。
「違うよ、雅紀だよ。智くん、今雅紀ん家にいるから」
「そうなの? 会いに行くの?」
行きたい。
本当は飯なんか呑気に食ってられないぐらい、会いたくて仕方ない。
でも…
「今度高校の時の同窓会があるんだ。その時に会おうって約束した」
「そう…。でもきっと待ってるわね…」
母さんも雅紀と同じことを俺に言う。
それきり母さんは黙々と食事を済ませ、食後のコーヒーの準備を始めた。
「ねぇ、潤さ、来たんだろ? 親父と何話したか聞いてる?」
ずっと俺の中で引っかかっていたこと。
潤がどうして俺のために親父に頭を下げたのか、俺はそれが不思議で仕方なかった。
だって潤も智くんのこと…あんなに好きだったのに…
それなのにどうして…
そのことがわだかまりとなって、俺の中に残った。
『「新世界」より』完