第10章 「新世界」より
スマホの無料通話アプリを起動させて、アイツとのトーク画面を開いた。
そこには数日前にアイツが一方的に送り付けてきた文章がそのまま残っている。
『大ちゃん、今ウチにいる』
『今の大ちゃん、見てるこっちの方が辛くなるぐらい痩せたよ』
『俺達じゃ、大ちゃんは救えないよ?』
『どうする? 会いたい? それとも会いたくない? 』
『このままほっとくつもり?』
『どうすんの?』
『翔ちゃん、大ちゃんは今でもきっと翔ちゃんのこと待ってるんだと思うよ?』
アイツの…雅紀の言葉が、それまで親父の存在に怯え、自分から行動を起こすことを恐れていた俺の背中を押してくれた。
『わかった。きっと迎えに行く。だからそれまで智くんのこと頼む』
その後雅紀とは何度か連絡を取り合い、見合いだけはどうしても避けられないことを伝えた。
「勿論断るんでしょ?」
雅紀は当たり前のようにそう言った。
だから俺も、
「勿論断るよ」と答えた。
覚悟を決めた俺には、もう怖い物なんて何もなかったから。
俺はアプリを閉じ、着歴画面に切り替えると、雅紀の履歴タップした。
数コール待って電話の向こうから雅紀の声が聞こえた。
「あ、俺だけど、全部終わったから。親父ともちゃんと話した。…許してくれたみたい」
雅紀は俺が話す間、ずっと黙って俺の言葉を聞いていた。
「同窓会の日さ、俺迎えに行くから、智くんのこと。だからそれまで…」
「分かった。心配しないで? 和も着いてるからさ」
雅紀はそう言って笑った。