第10章 「新世界」より
「受け継ぐことを放棄したお前に、人としての価値は無いと言っても過言ではない」
親父の言う通りだ。
俺は智くんを選んだ時点で、子孫を残す権利を放棄したんだ。
「でもな、翔? 人の価値なんて物は、人が作り上げるものだ。お前はあの子に人生をかけるだけの価値があると言った。…だが、あの子はお前にそれだけの価値があると思っているんだろうか?」
「それは…分かりません。でも、もしも智くんが…彼が僕にそれだけの価値がないと…そう思ったとしても、僕が彼を愛することは止められない。それが僕の生き続ける”理由”だから」
智くんを愛すること、それだけが今までも、そしてこれからも俺がこの世に存在する”意味”であり”理由”でもある。
「そうか…。さ、もう遅いから、私は休むとしよう。…さっきは済まなかったな? お前を試すような真似をして…」
親父は席を立つと、そのままリビングを出て行った。
黙って話を聞いていた母さんも、父さんの後を着いて行った。
一人リビングに残され俺は、すっかり温くなった缶ビールを一気に飲み干した。
「あ、まじぃ…」
温い上に気の抜けたビールは、ただ苦いだけの水と変わらない。
俺は空になった自分の缶と、テーブルの上に置きっぱなしになっていた親父の缶とを手に取ると、リビングを出てキッチンへ入った。
缶を水で濯ぎ、シンクの横に伏せて置いた。
そして全ての照明を消し、俺は自室のある2階へとへと上がった。