第10章 「新世界」より
親父にどんな心境の変化があったのかは、実際のところ分からない。
潤がどんな手を使ったのか、俺には知る由もないが、でも潤の援護射撃が功を奏したのは事実。
俺はほんのちょっとだけ潤に嫉妬を感じていた。
俺が何年かかっても溶かせなかった親父の頑なな意思を、潤はいとも簡単に変えて見せたんだから。
それでも親父が智くんとのことを認めてくれた、そう思うだけで、俺の心は天にも上る気分だった。
その日は母さんの強い希望で実家に泊まることにした。
本当は直ぐにでも智くんの所に行きたかったけど、今まで俺のことで心を痛めてきた母さんのことを思うと、母さんの小さな願いを無下にする気にもなれなかった。
母さんは照さんの手を借りながら、テーブルいっぱいの料理を用意してくれた。
苦手なのにね、料理…
俺はその気持ちだけでお腹がいっぱいになりそうだった。
ゆっくり風呂に浸かるのも久しぶりのことだった。
いつも忙しさにかまけてシャワーだけで済ませてしまうことが多いから。
バスタブに足を伸ばすと、全身の疲れがスッと抜けて行くような気がして、睡魔が襲ってくる。
「翔、着替えここに置いとくわよ?」
丁度ウトウトしかけた時、扉の向こうから母さんの声がした。
「うん、ありがとう。もう上がるよ」
「そう? じゃあ、上がったらリビングにいらっしゃい? たまにはビールでも飲みましょ?」
母さんの声がどことなく弾んで聞こえるのは、気のせいなんかじゃないよね?