第10章 「新世界」より
窓を閉め切った部屋は少しだけ空気が重かったが、あとは何も変わっていない。
きっと照さんがマメに掃除をしてくれているんだろう、あの頃のままだ。
まるでこの部屋だけが時間が止まっているみたいに…
俺は窓を開け放ち、空気を入れ替えた。
そしてきちんと並べられた本棚から卒業アルバムを取り出し、机の上に開いた。
「若いなぁ、みんな…」
ページを捲るごとに、懐かしさが込み上げる。
「戻りてぇな、あの頃に…」
どんなに昔を懐かしんだところで過ぎた時間はもう戻ることはない。
でも…
「例え過去は変えられなくても、未来は俺が変える…」
俺はアルバムを閉じ、部屋を後にした。
書斎のドアの前に立つと、途端に言い知れぬ緊張感が襲ってきた。
ジャケットのボタンを閉め、姿勢を正した。
逃げ出したくなる気弱な自分に、頬を両手で叩いて気合いを入れる。
「お父さん、翔です」
敢えてノックせずに、声だけをかけた。
「入りなさい」
扉の向こうから低い声が聞こえたのを合図に、俺は重い扉を開いた。
書斎に一歩足を踏み入れると、親父は書斎机に頬杖を突き、鋭い眼光を眼鏡越しに投げて寄越した。
「見合い、断られたそうだな?」
「いえ、僕の方からお断りさせて頂きました」
親父は俺の答えにフッと笑い、シガーケースから煙草を一本取りだすと、それを口に銜えた。