第10章 「新世界」より
聞けば、結には高校時代から付き合っている恋人がいるそうで、俺との見合いも結の知らない所で話が進んでいたらしく、結にとってはまさに”寝耳に水”の話だったのだ。
つまり俺も、そして結も、この年になってもまだ親の操り人形ってことだ。
「私達、なんだか似てますね」
そう言って笑った結の顔は、やっぱり智くんの笑顔に良く似ていて、俺は次の言葉を見失った。
俺達は連絡も交換することはしなかった。
異性のアドレスが危機的状況を招くことだって無いわけではない。
リスクは出来る限り避けた方がいい。
結と別れホテルを後にした俺は、その足で実家へと車を走らせた。
この縁談が破談になったことは、多分親父の耳には入っていることだろう。
殴られるだろうな…
そんなことを考えていたら、今すぐにでも車をUターンさせてしまおうかとも思ったが、俺ももう子供じゃない。
当然一発や二発は甘んじて食らう覚悟は出来ている。
あの時の俺とは違うから。
ガレージに車を停めると、緩めていたネクタイを締め直し、助手席に放り投げてあったジャケットを羽織った。
車を降りると、都会とは違った、澄み切った空気が身体を包んだ。