第9章 子守唄
「ご両親は元気かい?」
不意の質問に、俺は思わず口篭る。
両親には家を出てから、会うことはおろか連絡すらしてなかったから。
「あれから会ってないのかい?」
俺は無言で頷いた。
「そうかい…そりゃご両親も心配してるだろうねぇ…」
おばちゃんは溜息を一つ零した。
「迷惑かけちゃったから…親に…」
両親をこの街にいられなくしたのは、紛れもなくこの俺。
俺が翔くんを好きになったから…
俺が翔くんを好きにならなければ、両親は今でもこの街で、細々とではあっても家業の鉄工所を営んでいた筈なんだ。
全てが俺のせいで壊れてしまったんだ。
「俺が悪いから…」
体温で温くなっていくプリンをじっと見つめた。
そう言えば翔くん好きだったよな、このプリン…
ふと思い出す懐かしい記憶が脳裏を過ぎった。
「俺が“男”を好きになったから…だから、父ちゃんも母ちゃんも…俺の事なんて…」
たった一人の息子が、よりにもよって同性を好きになるなんて…もし俺だったら…そんなの耐えられっこない。
ショックでどうにかなってしまうかもしれない。
「バカだねぇ、さとちゃんは…」
うん。
ホント、俺バカだ…