第9章 子守唄
目の前に出された料理は、どれも手が込んでいて、とても美味しそうに見えた。
でも少し箸を付けただけで、頭の中で俺自身が警告を出した。
”それ以上食べたらまた…”
”でも…”
「無理しなくていいって…」
箸を持ったまま動けずにいる俺に和が言った。
結局料理に殆ど手を付けることなく、俺は箸を置いた。
頃合いを見計らってお盆を下げに来たおばちゃんが俺を咎めたが、そこは和が上手く誤魔化してくれた。
食事が済むと、和は相葉ちゃんと話してくると言って席を立った。
でも一人残される俺を心配したのか、
「大野さんちょっとここで待ってられる?」
と俺の顔を覗き込んだ。
まるで子供扱いだな…
「大丈夫だよ、子供じゃねぇし…」
不貞腐れる俺に、和はプッと噴き出すと、俺の頭をポンポンと叩いた。
やっぱり子供扱いだ…
「なに、あんた…えっと…大野さんとこの…誰だっけ?」
おばちゃんが自分の額をペチペチ叩いた。
「あ、智です…」
「あ~あ、さとちゃんね? そうそう、そうだったわ」
さとちゃん、て…
呆然とする俺を他所に、和が声を立てて大笑いを始めた。
目に涙まで浮かべちゃって…
「で、さとちゃんは暇なんだろ? ちょっと私に付き合ってくれないかい?」
仕入れに出かけると言うおばちゃんに、俺は強制的に市場まで連行される羽目になった。