第9章 子守唄
「今俺んとこ居るんだわ」
和が俺を振り返り、”な?”とウィンクを一つ寄こした。
おばちゃんは納得した様子で、俺達を店内に招き入れ、お腹は空いてないのか、何か食べるか、と世話を焼き始めた。
奥のテーブルに通されると、向き合って座った俺達の前に、料理を乗せたお盆が置かれた。
「これ食ったら帰れよな?」
声の主は相葉ちゃんだった。
仏頂面でそっぽを向いたままの相葉ちゃんに、和も敢えて視線を合わせようとしない。
「…でっ!!!」
おばちゃんの平手が相葉ちゃんの後頭部にヒットした。
頭を擦る相葉ちゃんの姿に、和の顔が漸く少し綻ぶ。
そして、
「俺、帰んねぇよ? お前に話したいことあるから」
頬杖を着いた和が、相葉ちゃんを見上げた。
「どうでもいいからさ、とっとと食えよ」
それだけ言うと、相葉ちゃんはまた厨房へと戻っていった。
和の視線がその後ろ姿をずっと追った。
「和?」
俺が声をかけると、慌てて視線を厨房から俺に移した。
「さ、食べよ」
無理に明るく振る舞おうとしているのが、痛いほど分かった。
「いただきます」
俺達は小さく手を合わせた。