第9章 子守唄
店の自動ドアが開くと、中から「いらっしゃいませ」と気持ちが良いぐらい元気な声が響いた。
「あら〜、和君。久しぶりね」
相葉ちゃんのお母さん?
「おばちゃん、久しぶり」
和も明るく挨拶を交わした。
「そっちの子は…ひょっとして、大野さんとこの…?」
和の背中に隠れて俯く俺を、相葉ちゃんのお母さんが訝しむような表情で指さした。
それも当然なのかも知れない。
俺と翔くんのことは、小さな町ではちょっとしたスキャンダルとして囁かれた時期があった。
俺が町の名士の息子を誑かした…
噂は直ぐに広まり、すれ違う誰もが俺を奇異の目で見るようになった。
耐えきれなくなった俺は、生まれ育ったこの町を逃げるように出たんだ。
俺の両親もそう。
家の塀や壁には俺を罵るような、酷い言葉の落書きをされ、結局この町では家業を営むことが出来ないと判断した両親は、この町を出ることを余儀なくされた。
噂を流したのは翔くんのお父さん、らしい…
俺と翔くんを少しでも遠ざけることが目的だったと、後から風の噂に漏れ聞いた。
だから相葉ちゃんのお母さんが俺を見て怪訝な表情を浮かべたのは、当然のことなんだ。