第9章 子守唄
漸く客足が途絶えてきたのは、二時少し前。
「流石に腹減った…」
和が運転席のリクライニングを起こしながらお腹を押さえた。
「ほんとだね…」
お腹なんて本当は空いてなかったけど、和に合わせてお腹を摩った。
「そろそろ行くか…」
一つ大きく伸びをして和が運転席のドアを開けた。
と、同時にまた電池が切れたみたいに動けなくなってしまう。
見兼ねた和が助手席のドアを開け、俺の手を引いた。
「もぉさ、そんなビクビクしないの! アンタらしくないよ?」
俺らしい、ってどんなだよ?
言い返そうにも上手く声に出せなくて、やっぱり俺は俯くしか出来なかった。
「ほら、行くよ?」
大の大人が、大の大人の手を引いて歩く光景なんて、よくよく考えたら恥ずかしいことこの上ないことなのに、それを振り解く勇気も今の俺にはない。
和の手を離した瞬間、きっと俺は足を前に進むのを止めてしまうだろう。
それが分かっているから、和も俺の手を絶対に離そうとはしない。
多分、出来ないんだ。