第9章 子守唄
「着いたよ?」
和に肩を叩かれ、俺は重い瞼をこじ開けた。
「ここ…は?」
寝ぼけ眼を擦り、周りを見渡した。
「今更なんだけど、マンションじゃないの?」
ずっと疑問に思っていたことをそのまま口にした。
和が隣で飲みかけの缶コーヒーを吹き出しそうになって、一人で慌てふためく。
「あ、あのさ、ホンットに今更だよね?」
呆れたと言わんばかりに溜息を一つ零して、和が車のエンジンを停止させた。
「アイツさ、連絡取れないと思ったらさ、実家の手伝いしてたみたいなんだよ」
なんで…?
言いかけた俺の言葉を遮るように和は話しを続けた。
「俺も流石に気になって、お袋さんに電話したんだよ。そしたらさ、親父さん過労で倒れたらしくて、今入院中なんだって。で、代わりにアイツが店開けてるんだってよ…」
「相葉ちゃんも大変だったんだね…」
店の入口に視線を向けると、数人のサラリーマンが食事を終えたんだろうか、爪楊枝片手に腹を摩りながら出て来た。
「まだランチ時で忙しそうだから、もうちょっと待とうか?」
和の言う通り、出て来た客と入れ変わるように入って行く客も後を絶たなかった。