第9章 子守唄
結局俺は和に半ば強引に連れ出された。
車に揺られること一時間。
窓の外に見覚えのある風景が広がった。
俺が…俺達が生まれ育った町。
そして、
翔くんと最後に手を繋いで歩いた砂浜。
10年経っても変わらない風景に、懐かしい記憶が蘇る。
でも、それと同時に辛い思い出も呼び起こされて、こみ上げる吐き気と、ままならない呼吸に、俺の身体が震えた。
「少し車停めようか?」
俺の返事を待たずに車は路肩に停車した。
とても答えられる状態じゃなかった。
痺れる手でシートベルトを外し、ドアを開けると、俺は転がるように車外へと飛び出した。
吐き出すモノなんて、何もないのに…
「車、酔った?」
和はそれだけ言って、俺の背中をずっと摩ってくれた。
暫くすると漸く吐き気も収まり、俺が来るに乗り込むと、冷たいスポーツドリンクが差し出された。
「無理に食わなくてもいいからさ、水分ぐらいはちゃんと摂れよ?」
「…うん。ありがと…」
受け取ったスポーツドリンクを、空っぽの胃に流し込んだ。
「もうちょっとで着くけど、また気分悪くなったら早目に言いなよ?」
俺を気遣う和の言葉に、俺は小さく答えて目を閉じた。