第8章 椿姫
「オレさ、思うんだけど、会わせちゃったら駄目なのかな、翔ちゃんに…」
それは考えなかった訳じゃない。
潤と暮らしていても、満たされる事のなかった大野さんの心を、翔ちゃんならきっと満たしてくれるだろうから。
でも…
「でも翔ちゃん結婚するし…。それに…」
潤のことはどうすんだよ?
あの性格だから、キレたらまた何しでかすか分かったもんじゃない。
そしたらまた大野さんが苦しむことになる。
それは絶対に避けなければいけない。
「なぁ、和? オレが言うのも何だけどさ、まずは大ちゃんのストレス少しでも減らしてやること考えない?」
そんなこと分かってる。
分かってるけど、でもどうやって?
「大ちゃん、きっと寂しくなっちゃったんだろうね。好き人と一緒にいられない、って本当に辛いもん」
まーくんが俺を真っ直ぐ見つめた。
言いたい事はわかってるよ…
俺もそうだったから。
「そろそろ行かないと、大野さんに本気で勘違いされる」
いくら考えても出ない答えに、俺はすっかり重くなってしまった腰を上げた。
「とりあえずさ、今日は3人で川になって寝ようぜ?」
まーくんの提案に、
「真ん中大野さんな?」
と満面の笑みで応えた。
まーくんがガックリと肩を落とした。