第8章 椿姫
和也side
そこまで言って俺は口を閉ざした。
その先を話すのが躊躇われた。
「ちゃんと話してよ? オレ何聞いても驚かないしさ…」
まーくんの手が俺の手を握った。
「…分かった。分かったけどさ、俺が何言っても、大野さんのこと責めないでね? あの人、何にも覚えてないから…」
俺はまーくんの瞳を真っ直ぐ見つめた。
まーくんが“うん”と頷き、俺は大きく息を吸い込んだ。
「俺に“抱いて”って…。俺のこと翔ちゃんと勘違いしてさ、“抱いて”って、さ…」
えっ、とまーくんの目が見開かれた。
その表情だけで分かる。
まーくんは俺が大野さんを受け入れたと思っている。
「で、和…は?」
「お前が思ってるようなことはねーよ」
呆れて思わず溜息を零すと、まーくんが心底安心した表情を浮かべた。
「そこは信用しろよな? 大体、俺が大野さんのこと…その、抱けると思う?」
出来るわけない。
確かに俺は大野さんに憧れてた。
でもそれは“好き”とか、そんな感情ではない。
それにあの人が想ってるのは、今も昔も変わらず翔ちゃんだけだ。
それを分かっていながら抱くほど、俺はバカじゃ、ない。