第8章 椿姫
「それからなんだよね、大野さんの様子がおかしくなったの。潤も多分…気付いてて俺に大野さん預けたんだと思う」
「翔ちゃんには確かめたの? 潤には…」
和が呆れた様子で俺を睨んだ。
「言ったでしょ、確かめてない、って…」
溜息を一つ落とした。
「で、どうおかしいの、大ちゃん」
「一緒に生活してて気付いたんだけど…。食ったモン全部吐いてんだよね、俺に気付かれないようにさ…」
「スト…レスが原因?」
俺は思ったことをそのまま言葉にした。
和はそれに大きく頷き、天井を仰いだ。
「心因性のストレス…だと思う。でもそれだけじゃないんだよ…」
心因性のストレス…
その言葉が頭から離れなかった。
原因の一端は俺にもある。
「夜中さ、ベッドにいなくって、大野さん。トイレかと思ったんだけど、違ってて…」
和が苦しげに眉を顰めた。
「和…?」
「窓辺に立ってさ、泣いてんだよ、毎晩毎晩…翔ちゃんの名前呼びながらさ…」
和の目からついに耐えられなくなった涙が一筋零れた。
「でさ、俺が声かけるじゃん? そしたらさ、俺を見て、“翔ちゃん“って…」
一瞬言葉に詰まる和。
そして腕で涙を拭うと、俺から視線を逸らした。