第8章 椿姫
雅紀said
俺達は向き合って座った。
目の前の和はずっと俯いたままで、口を開こうとしない。
俺は待とうと思った。
和が自分から口を開くまで。
そして暫らくの沈黙の後、
「大野さんのことなんだけど…」
漸く和が口を開いた。
「メール、ちゃんと見てないん…だよね?」
そうだった。
そもそも俺がちゃんとメール見てりゃ、余計な誤解することもなかったんだ。
「それは…ほんと、ごめん…」
俺は和に向かって頭を下げた。
「うん。それはもういいよ。それよりさ、話の続き…」
「お、あぁ、そうそう。うん、話聞かせて?」
和はスーッと深呼吸を一つした。
「大野さんが潤と暮らし始めたのは、まーくんも知ってるよね?」
ウンウン、と俺は頷く。
「始めはさ、順調に行ってたみたいなんだよ。でもさ…」
そこまで言って和が言葉の先を濁した。
「なに? 何があったの?」
「ここからは俺の推測でしかないんだけど、まだ本人にも確かめてないから…」
和が膝の上に乗せた拳に力を入れた。
「大野さんさ、多分会ってんだよ、翔ちゃんに…」
「えっ…」
ても、と言いかけて俺は言葉を飲み込んだ。