第8章 椿姫
まーくんの濡れた唇が、身体のあちこちに触れる。
まるで離れていた時間を埋めるように、丁寧に…
俺は感じてるのを気取られたくなくて、唇を噛んで吐息が漏れ出るのを耐えた。
少しだけ口の中に鉄の香りがした。
「我慢しないで? 聞かせてよ、俺に…和の可愛い声を…」
耳元で囁かれるその声は、普段耳にするまーくんの声とは違って…
大した刺激も与えられていないのに、俺はその声だけでイッてしまった。
それも自分の手の中で…
「ん…も…ぉ、バカッ! 」
手の中でドクドクと脈打ち、熱を吐き続ける自身。
俺の心臓掌は、自分の出したモノでベトベトになった。
「替えのパンツ貸せよな?」
下着が汚れてしまったことに不満を零す俺に、
「色気ねーなー」
そう言って、まーくんは笑った。
太陽みたいに眩しい笑顔。
俺の大好きな笑顔だ。
「笑っててよ、まーくんだけはずっと…。まーくんの辛い顔、見たくないから…。俺の前ではずっと…笑顔でいて?」
そしたら俺も笑ってられる。
だから…俺達だけは、笑顔でいようよ?
「もしさ…もしもだよ? どうしても泣きたくなったらさ…耐えきれなくなったらさ、和は一緒に、泣いてくれる?」
まーくんの潤んだ瞳が俺を見下ろす。
その目はどこか不安に満ちていて…
「…ったりめーだ。一緒に泣いて、その後は一緒に、笑うんだよ」
今にも泣き出しそうな顔が近づき、俺の唇をまーくんのそれが塞いだ。