第8章 椿姫
母ちゃんがいないことに気を良くした俺は、和の唇に自分のそれを重ねた。
大ちゃんのことは、勿論気にならない訳じゃなかった。
だけとそれ以上に今は和を抱きしめたかった。
啄むように軽いキスを繰り返しながら、手を和のセーターに滑り込ませ、そのままセーターを脱がせた。
ピクッと和の身体が震える。
「イキナリかよ?」
驚いたように和が声を上げた。
「だって俺だけ裸、ってのもおかしくない?」
そうなんだ。
仕事着脱ぎ捨てて、パン一でベッドに潜り込んだから、俺が身に付けているのは、下着だけ。
「それもそうか…」
和が俺の身体を見て、妙に納得したように呟いた。
「下も脱がせていい?」
俺は和の返事を聞く間もなく、カーゴパンツのウエストに手をかけた。
あれ?
これって…?
「これ、俺が和の今年の誕生日にプレゼントしたパンツ?」
色もデザインも、確かに見覚えがある。
「…そうだよ。もしオマエがこれも忘れてたら、もう本当に終わりにしてやるつもりだったけど、覚えてたんだ?」
忘れるわけないじゃん…
2人でさ、ああでもないこうでもない、って散々迷った挙句、漸く決めたんだから。
でも実際に履いてるのは、初めてだ。
それを履いてきてくれたことに、俺の涙腺はまたしても緩みそうになる。