第8章 椿姫
和也side
勘違いしてるんだろうな、とは薄々感じてはいた。
でもまさかそんな風に思ってたなんて…
まーくんの手から離れた手は、迷うことなくまーくんの頬を掠めた。
驚いたように俺を見つめるまーくん。
そりゃそうだよね…
俺が人に手を上げる、なんてこと未だかつてなかったことだ。
逆はあっても。ね?
叩いた方も痛いんだよ、って聞いたことがあるけど、本当なんだね…左手がジンジン痺れる。
それに、何より俺の心が痛い。
「な、なんで俺が叩かれなきゃなんないの?」
右頬を手で押さえ、俺を見上げたまーくんの目に光る涙。
俺は頬を押さえる手に、自分の手を重ねた。
「痛かった? でもさ、こうでもしなきゃ分かってくれないでしょ?」
誤解だって…
まーくんの勘違いだ、って気付いて欲しくて…
まーくんの両頬を包み込み、そっと唇を寄せた。
触れただけのキスは、どちらの涙か分からないけど、少しだけ塩っぱかった。
「俺と大野さんの間には何もないよ? 大野さんが家にいるのは、潤に頼まれたから、預かってくれってね?」
事実俺と大野さんの間には、“親友”以上の関係はない。
それ以上の関係はもっちゃいけない、って思ったから…