第8章 椿姫
「大ちゃん…待ってんだろ? さっさと行けよ…」
布団の中から、多分俺を見下ろしているだろう、和に言った。
そうだ、俺なんかに構ってないで行っちゃえよ。
「おまっ…ふざけてんの!?」
急に視界が明るくなったと思ったら布団が剥ぎ取られた。
「…っにすんだよっ!」
布団を奪おうと伸ばした手が、和の手に捕まる。
力では俺の方が上だ。
捻り返そうと思えば出来なくもない、けど…
「早く行けよ、俺のことなんかほっといてさ…」
「ほっとけるかよ…」
和の手に力が入った。
「だって和、大ちゃんと…」
えっ、と和が目を見開いた。
「付き合ってんだろ?」
何も答えない和。
答えないのは、認めたってことだよね?
「抱いたの? それとも抱かれたの?」
それが和を傷つける言葉だって、分かっていながら、でも自分の気持ちが抑えきれず、一気に捲し立てた。
「どうだった、大ちゃんの身体は? よかったでしょ? 一回抱いたらさ、絶対嵌るよね?」
見る見る和の顔が赤く染まり、俺を睨みつける目にも涙が浮かんでいた。
「なんで和が泣くの? …泣きたいのはコッチだよ…」
とうとう和の目から涙が零れた。
そして俺の手首を掴んだ手が、ゆっくりと解かれた。
瞬間、俺の目の前は衝撃で真っ白になった。