第8章 椿姫
俺達が食事が終えるのを見計らって、おばちゃんが空いた皿を下げにやってきた。
「あら、全然食べてないじゃない?」
大野さんの皿をチラッと見ておばちゃんが言った。
俺は綺麗に平らげたけど、出された量の大野さんは半分も食べていない。
申し訳ないことをしたと思いながらも、流石に大野さんが残した分を手伝えるほど、俺の腹にも余裕はない。
こんなことなら、俺の分を大野さんに分けてやれば良かった、なんて思ったところで時既に遅し、だ。
「大野さんさ、ちょっと調子悪くてさ、あんま食べられないんだわ。せっかく出して貰ったのに、ゴメンネ?」
心底申し訳なさそうな表情を浮かべて、おばちゃんに手を合わせた。
「そうかい? でも、ちゃんと食べないと、大きくなれないよ…って、もうなっちゃってるわね」
そう言っておばちゃんは、大きな口を開けてガハハと笑った。
まーくんがお調子者なのは、きっとこのおばちゃんに似たからだ、と俺は思った。
「おばちゃん、まーくんは?」
尋ねると、
「いないねぇ…。多分自分の部屋じゃないかしらねぇ?」
おばちゃんは厨房の方を覗き込み、呆れたように言った。