第8章 椿姫
和也side
まーくん少し痩せた?
目の下に薄ら隈なんか作っちゃってさ、疲れてんだよね、きっと…
俺からのメールが、慣れない仕事に追われるまーくんを、余計に悩ませてしまったことを、少しだけ後悔した。
でもそれだって元はと言えばまーくんが悪いんだ。
もっと早くに親父さんのこととか、相談してくれてれば…さ…
俺だって…
「…かず…?」
目の前の大野さんに声をかけられ、俺は慌てて視線を厨房の背中から、大野さんに移した。
「さ、食べよ? 俺、もうお腹ペコペコだよ」
箸立てから2人分の箸を取り出し、大野さんに渡した。
大野さんはそれを受け取ると、小さくいただきますと言って手を合わせた。
俺も同じように手を合わせた。
その様子を見ておばちゃんは、
「ゆっくりしてってね? 今日は夜臨時休業にするから」
そう言ってサンダルをカラコロ鳴り響かせながら、店の奥へと消えていった。
「美味いね…」
味噌汁を一口啜って大野さんが呟いた。
「あぁ、うん。でもさ、やっぱり親父さんの作った味噌汁には適わないね」
嘘…
まーくんが作った味噌汁の方が、俺にとっては一番のご馳走だよ?