第8章 椿姫
「ちょっと雅紀、和君達になんか出してやって?」
和達のテーブルから、母ちゃんの声がかかった。
なんで、俺が…
そう思いながらも、ランチの残りのおかずと、後は残り野菜を使って簡単な料理を作った。
「…出来たよ」
厨房から少しだけ顔を覗かせて、和と談笑する母ちゃんに声をかけた…が、返事はなく、こっちを振り向く気配もない。
せっかくの料理、冷めちまうだろ?
俺は厨房から出て、料理を乗せたお盆を和達のテーブルに運んだ。
「これ喰ったら帰れよな?」
言いながら和と大ちゃんの前にお盆を置いた。
「あら、せっかく和君が来てくれたのに、なんてこと言うのよ、この子は…」
母ちゃんの平手が後頭部にヒットした。
「俺、帰んねぇよ? お前に話したいことあるから」
テーブルに頬杖を着いた和が俺を見上げる。
ジッと俺を睨みつけるような視線。
「もうさ、どうでもいいからさ、とっとと食えよ」
視線に耐え切れなくなった俺は和に背を向け、再び厨房に入ると、ポケットに忍ばせてあったタバコに火を付けた。
俺に話したいことって何だろう?
和は本気で俺と別れるつもりなのか?
やっぱりあのメールは冗談なんかじゃなかったんだ。
煙草の煙りが目に染みて、涙が溢れた。