第8章 椿姫
雅紀side
忙しいランチタイムもそろそろ終わろうとしていた時、店の自動ドアが開いた。
これでやっと一息つける、そう思っていたの…
心の中で舌打ちをしながら、
「いらっしゃいませ」
と作り笑顔を店の入り口に向けた。
「えっ、なんで…?」
そこに立っていたのは和で、その後ろには和に手を引かれ、俯いたままの大ちゃんの姿があった。
「あら〜、和君。久しぶりね、いらっしゃい」
母ちゃんがサンダルの踵をカツカツ鳴らしながら、入り口に立ったままの和を出迎えた。
「おばちゃん、久しぶり。ちょっとまーくんに用があってさ…」
母ちゃんと挨拶を交わしながら、視線はチラチラと厨房の俺に向けられる。
「あら、そうなの? で、そっちの子は…ひょっとして、大野さんとこの…?」
和の後ろに隠れるようにして立ち尽くす大ちゃんを指差した。
「あぁ、うん…そう。今俺んとこ居るんだわ」
何だよそれ…聞いてないし…
「そう。まぁ、そんなとこ立ってないで、中入んなさい。あ、そうそう、アンタ達、お腹は空いてないの? 何か食べる?」
どうしてオバチャンてのは、こうも世話を焼きたがるのか、俺には全く理解不可能だ。
母ちゃんは和と大ちゃんを奥のテーブルに通すと、いそいそと水の入ったグラスとオシボリを運んで行った。