第8章 椿姫
メールの内容はこうだ。
買い付けの為、急遽海外へ行くことになった、と。
本当は大野さんを連れて行きたかったらしいが、パスポートの申請が間に合わず、やむ無く置いていくことにした。
でも大野さんを一人にしておくのも不安で、大野さんが一番信頼を寄せている人物は、ってことで俺に白羽の矢が立ったようだ。
期間は一週間。
俺は迷うことなく潤の頼みを受け入れた。
勿論、大野さんはそれを拒んだ。
俺に迷惑をかけたくないから、と…
でも理由はそれだけじゃなかった。
男の一人暮らし。
当然寝室だって一つしかない。
幸いにも俺のベッドは、まーくんが泊まりに来ることもあってセミダブル。
リビングのソファで寝ると言い張る大野さんを、強引にベッドに引き摺り込んだ。
別に下心があった訳じゃない。
ただ、これで身体でも壊されたら、それこそ潤に何を言われるか分かったもんじゃない。
でも結果、俺は気付くことになったんだ、大野さんの異変に…
それは最初の夜からもう始まっていて…
一人では抱えきれなくなった俺は、まーくんに相談を持ちかけた。
「助けて欲しい」と…
でもまーくんからの返信は無く…
思い余った俺は賭けに出た。
「もう終わりにしよう」
たった一言、短いメールを送った。