第8章 椿姫
和也side
大野さんが潤の戻へ行った。
俺にとってはちょっとしたショックな出来事だった。
あれ程翔さんのことを思っていた筈なのに…?
潤に酷い目に合わされたのに…?
それなのに潤を選んだ大野さんの気持ちが、俺には理解出来なかった。
でもそれが大野さんが自ら下した決断なら、それも仕方の無いことだと、自分に言い聞かせた。
だって、大野さんの心の中までは、俺は踏み込めないから。
それに翔さんは結婚すると言った。
そんな相手をいつまでも想い続けても、きっともっと辛くなるだけだろうから。
あの日…大野さんの部屋を訪ねたあの日から、俺は今まで以上に大野さんと連絡を取り合うようになっていた。
取り合う、って言っても殆どが俺からメールに、大野さんが短い返事を返してくるだけ。
面倒臭がりの大野さんだから、それも俺にとっては想定内のことで…
取り敢えず潤とは上手くやってる、ってことだけはその文面から読み取ることが出来た。
大野さんが幸せなら、それでいい…
そう思うことで、俺は俺自身を納得させた。
そんな時だった、
「一週間程、智を預かってくれないか」
潤からのメールだった。