第8章 椿姫
幸い親父の容態は大したこともなく、運び込まれた病院の見立てでは、原因は働き過ぎによる過労だろう、ということだった。
そりゃ、何十年も朝から晩まで、殆ど休むこと無く働き続けりゃ、いつガタがきたっておかしくはない。
ベッドに横たわる親父が、一回り小さくなった気がした。
自宅療養も可能だと医師は言った。
当然親父もそれを望んだが、家族会議の結果、強引に入院して貰うことにした。
俺の家は、じいちゃんの代から小料理屋を営んでいて、親父はその二代目。
ま、小料理屋と言えば聞こえはいいが、そんなのはじいちゃんの代までの話で、今じゃ定食屋と呼ばれることの方が相応しいんじゃないかと思う。
じいちゃんから受け継いだ店を潰したくない父ちゃんの気持ちは分からなくもないが、それで無理して身体壊してちゃ意味がない。
店を休みたくないと言い張る親父を、俺が代わりに店を開けることを約束して、何とか説き伏せた。
でもそれはあまっちょろい考えだった、とすぐに思い知らされた。
いざ始めてみると、思った以上に親父の仕事は過酷だった。
早朝の仕入れに始まり、仕込み、店の切り盛り全てを、親父は賄っていた。
母ちゃんも手伝いはしていたが、それでも親父の負担は、若い俺でさえ悲鳴を上げる程、大きいものだったと、今更ながらに感じた。