第7章 レクイエム
俺達の高校生最後の夏は、大した思い出も作れないまま終わった。
その後、それぞれが受験や就活で多忙を極めていった。
俺自身もそれは例外ではなく、家と学校そして塾の繰り返しの日々が続いた。
頻繁に取り合っていた連絡すら、滅多なことがない限り、取ることもなくなっていった。
当然、俺達の関係が疎遠になっていくのは自然なことだった。
勿論、智くんのことが気にならない訳ではなかった。
でも学校に行けば智くんに会える。
それだけで退屈な日常と、勉強漬けの毎日を乗り切ることが出来た。
俺達の関係は、恋人から友達に戻っただけ…
そして迎えた卒業式…
俺は卒業生代表としてスピーチを任された。
深呼吸をして、俺は壇上に立った。
壇上から見た景色の中に、智くんの姿を見つけた。
“翔くん、ずっと大好だよ”
“智くん、俺も智くんが大好きだよ”
目が合った瞬間、俺達は視線だけで会話をした。
言葉なんていらなかった。
俺は一つ息を吐くと、綺麗に折り畳んだ式辞用紙を広げた。
スピーチ内容は予め頭に入れておいた。
例え他人の手によって書かれた文章でも、その方がちゃんと自分の言葉として伝えられると思ったから。