第7章 レクイエム
海からの帰りのバスの中、行きのはしゃいだ気分とは、まるで天と地程の差だった。
行きのバスで俺の隣には智くんが座っていた。
皆に見えないように、こっそり繋いでいた手は、今は和也の手の中にある。
誰も座ることのない冷えたシートが、俺の心の中にぽっかり空いてしまった穴と被って見えた。
誰一人口を開く者はおらず、終始無言の時間が続いた。
原因は俺と智くんにあることは、他の三人の態度から明らかだった。
お調子者の雅紀ですら、流れる車窓に視線を向けたまま、黙りこくっていた。
潤に至っては、剥き出しの敵意を俺に対して向けてきた。
潤が智くんに、友情以上の感情を抱いていることは、俺も薄々気付いていた。
智くんを泣かせた俺を、潤は許せなかったんだろうと思う。
気まずい雰囲気の俺達を乗せたまま、バスは終点の停留所に停まった。
バスを降りた俺達は、軽く挨拶を交わしただけで、それぞれ帰路に着いた。
俺は家までの道すがら、和也に短いメールを送った。
『智くんのこと、ごめんな』
すぐに返事は返ってきた。
『心配しないで、大丈夫』
和也の一言に、少しだけホッとするのを感じた。
智くんは一人じゃない。
きっと一人になった瞬間、智くんは静かに涙を流すだろう。
でも、せめて今だけは…この瞬間だけは、智くんを一人にしない。
智くんから逃げた俺の、身勝手な願いだった。