第7章 レクイエム
「そろそろ戻らないと皆心配するね…」
智くんの一言で俺は我に返った。
時間の経過なんて、全く気にしていなかった。
「俺、もうしばらくここにいるから、翔くん先に戻ってて?」
でも…、と言いかけた言葉を飲み込んだ。
「分かった…」
絡めていた指を解き、智くんを振り返ることなく、俺は自販機で人数分のジュースを買った。
一本を智くんに手渡し、これで最後にするから、と細い身体をギュッと抱き締めた。
そんなことしたら余計に離れられなくなるのに…
でもそうせずにはいられなかった。
「…じゃ、先、行ってるね…」
智くんがうん、と頷く。
背中に回した手を解き、その手にペットボトルを4本抱えた。
皆の元へ戻ると、待ちくたびれたとばかりに、雅紀が文句を言ったが、俺は反論する気にもなれず、サンシェードに潜り、大き目のタオルを頭からスッポリ被った。
「ねぇ、翔ちゃん、大野さんは?」
一緒に出掛けた筈の智くんの姿がないことに、不安を感じた和也だ。
「ごめん、後頼んでいいか?」
その一言で和也は全てを察したようだった。
「分かった。心配しないで?」
そう言って和也はサンシェードから出て行った。
暫くして智くんの手を引いて戻って来た和也の目は、真っ赤になっていた。
そしてそれは智くんも同じだった。