第5章 ◇8/10Birthday(ラビ)
「……」
返事はなかった。
ただ腕の中にすっぽりと収まった体は、逃げる素振りも見せなかったけれど。
やがてゆっくりとした動作で、背中に回る小さな手。
あやすように優しく背中を撫でられて、なんとなくほっとした。
受け入れてくれてる。
言葉じゃ伝わらない、形での行為。
上手く言えねぇけど…なんだか安心した。
「──……花火、終わっちゃったね」
どれくらいそうしていたのか。
ぽつりとオレの腕の中で零す南の言葉に、周りが静寂に包まれていることに気付く。
顔を空に向ければ、もうそこに大火は見えない。
「なんだか、こうして終わっちゃうと…寂しい気もするよね」
呟く南の声はどこか儚い響きをしていた。
儚く一瞬で終わる花火と同じように、南の今のその存在も儚い一瞬のもののように思えて。
「……」
「……ラビ?」
ぎゅっと抱く腕に力が入る。
「…大丈夫さ」
「え?」
「オレ、こう見えて記憶力いいから。ちゃんと憶えておく」
例え一瞬のものでも、オレの目に焼き付けておくから。
南と共に見て回った屋台や見世物。
一緒に濡れたり火傷しながら食ったもん。
子供みたいに無邪気に喜んでくれた射的遊び。
この腕に抱いて共に見た花火。
そして、今目の前にあるオレだけの為に存在してる南のことだって。
忘れずに、オレの心にしまっておく。
「忘れなけりゃ、ずっと残り続けるだろ? ここにさ」
少し体を離して、改めて南の顔を見る。
にっといつものように笑って、胸にトンと拳を当てる。
すると南はまるで華のように、咲き笑った。
「うん。でもちょっとクサいね、その台詞」
「…南さん…雰囲気台無し」