第5章 ◇8/10Birthday(ラビ)
「そ、それにほらっ。今日はラビの誕生日だし。私、プレゼントだし?」
そんな照れを追い払うように、明るい声を出して笑いかける。
「キスなんて挨拶の一環でしょ。ラビ、そう自分で言ってたじゃない」
あれは頬キスだったけど。
まぁ、無理矢理感は否めないけど、そういうことにしておこう。
…前は、あの深夜にラビの部屋でされたキスでぎこちない関係になってしまった。
あの時に強く感じたんだ。
あんなキスをされてでも、ラビの想いを知ってでも。
私はラビとの関係を壊したくないんだって。
それは恋愛とかそういうものの前に、一人の人としてラビのことを大切だと思ったから。
…都合良い解釈かもしれないけど…それは本音だから。
だから今もそう。
驚きはしたけど、嫌な気はしなかった。
だから怒る気もない。
「だからもうそんな顔しないで。折角の誕生日なんだから。私、ラビの笑顔が見ていたい」
「…南…」
にっこり笑いかければ、片目だけ見える翡翠色の垂れ目が丸くなる。
まじまじと私を見てくる顔には、もう罪悪感の表情はなかった。
よかった。
「それ……逆効果だから…」
「はい?」
だけど。
ヘナヘナと力なく再び地面に沈むラビの顔。
顔は見えないけど、花火に照らされる耳は赤く染まっていた。
…何、逆効果って。
「オレ…南の傍にいたら、否応なしに精神力鍛えられそうな気がする…」
「…何それ。どういう意味?」
「…なんでもねー…」
あ、また。
そうやって肝心なところ、いっつも教えてくれないんだから。