第5章 ◇8/10Birthday(ラビ)
✣
『…ほんと、綺麗さ』
そう花火の美しさに賛同するラビの目は、その花火を見てはいなかった。
眼帯で隠れて一つしか見えない、翡翠色の左眼。
一つだけなのに、強く主張してくる澄んだ色の瞳。
それが真っ直ぐに向いていたのは、私自身。
ドキリとした。
魅入るように熱を帯びた目で、近くにあった顔が動く。
まるで流れるような動作だったから、声も何も出す暇もなく。
数十センチの距離を簡単に縮めた唇は、呆気なく重なった。
私の、唇と。
「──…」
どぉん、と花火の音がする。
ぱっと散る強い光に、目の前にあるラビの顔が照らされる。
だけど近過ぎて、私にははっきりとは見えなかった。
辛うじて捉えることができたのは、花火に照らされたオレンジ色の鮮やかな髪色だけ。
唇に感じる他人の体温。
夏の暑さからか、少し熱いそれは優しく、でも確かにはっきりと触れていた。
一瞬、時が止まった。
「…っ!」
それは一瞬だけだった。
一瞬だけ固まってしまった体が、はっと我に返る。
条件反射で目の前の胸を押し返せば、ぐらりと体が揺れて──
「!」
「ッわ…!」
同じくはっとしたラビが手を離したから、重力に従った私の体は背中から地面に向かって落下した。
落ちる…!