第5章 ◇8/10Birthday(ラビ)
ぷるぷる震えながらしっかり抱き付いてくる南の姿は可愛かったけど、怖がらせたくてやってる訳じゃねぇし。
「…じゃ怒んなよ」
「え?…っ!?」
ちぃっとばかし理性と戦わなきゃなんねぇけど。
再び南を抱き上げると、オレの膝に横向きに座らせる形ですとんとその場に腰を下ろした。
「少し暑いだろうけど、我慢な。これなら絶対落ちねぇし、落とさねぇから」
近くにある南の顔に笑いかければ、驚いた顔が微かに赤く色付く。
「で、でもこれ…」
どこに手をやったらいいのかわからないみたいで、拳を握ってそわそわと視線をぎこちなく逸らしてくる。
あー…うん。
その気持ちはわかんなくもないけど…。
「普通にしてていいさ。オレが捕まえてるから」
あんまり照れられると、オレまでその照れ伝染しちまうから。
そうなると変な空気になっちまいそうだし、なるべく普通の態度を装って声をかけた。
緩く南の腰と背中に手を回して、支えてやる。
すぐ近くにある南の顔をなるべく見ないようにして、視線を空へと変えた。
「ほら、此処なら空が近いだろ。花火もきっとよく見えるって」
「…だからって…突拍子なさ過ぎるよ…」
もごもごと小さな声で南が尚も反論していた時だった。
ひゅるるる…と一度聞いたら忘れない、独特の打ち上げ音が暗い空に木霊する。
──あ。
細い光の線が空に上がったかと思うと、ドォンッと大きな音がしてぱっと光の華が夜空に咲く。
南の予想通り。
どうやら打ち上げ花火が始まったらしい。
「…すげーさ」
「……うん」
さっきまでの南の慌てふためきも消える程、それは圧巻だった。
視界の邪魔になる木々はどこにもない。
視界一面に広がっている近い夜空で織り成す光の芸術は、簡単にオレの目を奪った。
何発も打ち上げられる花火が、空を明るく照らしていく。
赤に金、青に白。
色んな光が折り重なって、ぱっと散る一瞬の大火。
それは人の手で造り上げられた光の華。
…魅入るってのは、こういうことを言うんだろうなぁ。