第2章 ◇恋の始まり(ラビ)
「それより南、手鏡とか持ってる?」
「手鏡?」
そんな自分の意識を逸らすように、咄嗟に話題を変える。
「持ってるけど…なんで?」
「ん、なら貸して」
そういう女らしさはあったらしい。
聞けば足元の鞄から手鏡を取り出す南に、それを手に目の前で掲げてやる。
「折角やったんだから、付けなきゃ意味ねぇだろ」
「え?…あっ」
鏡を覗き込んで、髪飾りの存在に気付いたらしい。
驚いたようにその手は頭に飾られた花に触れた。
「…いつの間に」
「南がすげー熟睡してる方が可笑しいんさ。あんなに髪触ってんのに」
「そ、そうなの」
驚きまごつく南を見てると、自然とオレの胸の変な騒ぎも落ち着いた。
よかった、やっぱ一種の気の迷いみたいなもんだった。
確かに南はオレには居心地の良い存在だけど、"そういう対象"としては見ていない。
それならまだリナリーの方が、そういう相手として意識できる。
美人だもんなー、リナリー。
…ま、コムイが怖いから変に手は出さねぇけど。
「つーか、そうやって持ち歩いてんなら付けろよ。折角なんだし」
「!」
溜息混じりに言えば、顔を弾くように上げた南がオレを見た。
その目は驚いたようにオレを見て──…あ、赤くなった。
「持ち歩いて、なんか…」
「じゃあなんで持ってるんさ。付けたとこなんて一度も見たことねぇけど」
「……」
すると今度は俯く。
そんな反応に、ははん。と笑って納得する。
普段は雑な物言いもするけど、南は他人を気遣う心をちゃんと持ってる。
オレがわざわざやったもんだから、付けられなくても持っていようとしてくれたんだろうな。