第17章 初恋がロリコン男である件について【バク】
「何よそれ…随分とご都合主義ね」
「…すまん。これが俺の精一杯なんだ」
ちらりと視線を合わせれば、申し訳なくも真っ直ぐな瞳で返される。
今まで告げられたどの愛の言葉よりも情けないものだったが、今まで告げられたどの想いよりも素直で曇りなどない。
(バクらしいと言えば、そうかもね)
溜息にも似た吐息をつけば、目の前の体が強張る。
自分から距離を詰めた癖に、とその姿を見てミアは肩の力を抜いた。
(ご都合主義な頭は、私の方も。か)
それでも、純粋に嬉しさを感じているのだから。
齢4歳から始まった恋心は、拗れに拗れてしまった。
結果、簡単には整理のつかないものとなったが、ここまで遠回りもすれば当然なのかもしれない。
「じゃあ、私の我儘も一つ聞いて」
「な、なんだ?」
だからこそここで整理を付けようと、身を退いて改めてバクと向き合う。
大人になればなる程、立ち回りは上手くなり物事をスムーズに進められるようになった。
しかし大人になればなる程、上手くできないものも生まれた。
それが長年傍にいた、彼の前で素直になることだろう。
あの、淡い恋心を抱いていた少女の頃のように。
「中途半端に関係を作るなんて嫌よ。ちゃんと、言葉にして欲しい」
昔は貰えなかった、バクからの想い。
それを鱗片だとしても貰えるのならば。
「む…う、む…ゴホンッ」
顔を赤く染め咳き込みながら、バクもまた小さく頷いた。
蕁麻疹は辛うじて出ていないが、今にも症状が浮き出てきそうな雰囲気だ。
それでもグッと拳を握り耐え、切れ目の瞳はミアを映す。
「…ミアが…好き、だ。幼馴染や、部下としてじゃなく。だから、俺と、つ…つき…」
最初こそはっきりと告げられていた想いが、萎んでいく。
萎むというよりは、途切れ途切れに欠けていく。
比例するように益々赤くなるバクの顔を見て、ミアはくすりと仄かに笑った。
その態度だけで充分、彼の本気は伝わった。
「私も、」
カツリとヒールが鳴る。
二人の距離を縮めたのは、今度はミアの方だった。
ふわりとバクの頬に触れる程の微かなキスを送って、口元を綻ばせる。
「バクが好きよ」