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廻る世界の片隅で【Dグレ短編集】

第17章 初恋がロリコン男である件について【バク】



瞬いた切れ目が、ぽかんとミアを捉える。
と、ぶわりとその頬に赤みが差した。



「何よ、これくらいで真っ赤になるなんて」

「わ、わかっている」



ンンッと喉を詰まらせながら、拳を口元に当てて目を逸らす。
そんなバクの反応に、なんとまぁ初心なことかとミアは息をついた。



「ただの頬キスでしょ」

「わかっている、から、言うな」



そんなことはわかっている。



(そこじゃない)



不意打ちで触れた頬へのキスに、赤面したのではない。
バクの目が釘付けになったのは、ミアが垣間見せた一瞬の笑顔だ。

自覚したのだ。
ここ最近は見ていなかった、バクが知る本来のミアの豊かな表情。
それを率直に向けられることが、こんなにも嬉しいとは。
こんなにも、心を満たしてくれるものだったとは。



「よ、よし!仕事に戻るぞ!」

「え、もう?」



慌てて切り替えを求めるように声を上げるバクに、ミアの疑問符が向く。
彼女らしかぬその反応に、バクは眉を潜めた。



「"もう"とはなんだ。支部長としてあるべきことをしようとしているだけだぞ」

「それはわかっているんだけど…少し、ね」



派手なネイルはしていないが、綺麗に整えられた爪。
その指先でバクの服の裾をほんの少しだけ抓んで、ミアは眉を下げはにかんだ。



「まだバクと二人でいたいなって、思ったから」

「………」



沈黙は一瞬。



「っ!」

「ちょ…バクっ?」



ボンッ!と今度こそショートしたかのように、一気にバクの顔が赤く染まる。



「大丈夫っ?」

「んん"…!」



大丈夫ではない。
とは弱音を吐くようで言えず。
バクはただひたすらにミアから顔を逸らし続けた。

いつかはリナリーへの想いを、彼女へと向け直すことができたら。
淡く抱いた願望は、思ったよりも近いところにあるのかもしれない。









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