第17章 初恋がロリコン男である件について【バク】
「…何よ、それ」
ようやく沈黙を破ったミアの声は、小さく掠れていた。
「なんで今更…そんなこと言うわけ。自分で言ってる意味、わかってる?」
「ああ」
「嘘ばっかり。今まで手元にあったものが離れるから、嫌になっただけでしょ?そんな半端な思いで、簡単にそんなこと言わないで」
「半端じゃない」
「なんでそう言い切れるの」
「俺自身の思いだから、俺自身が一番よくわかっている」
説明せずとも、互いの言いたいことはわかる。
それだけ長いことつき合ってきた。
傍にいた。
その距離を離すように、一歩ミアが退く。
その距離を縮めるように、バクの足が追った。
「ちょ…っ」
「俺は、」
退いたミアの腕を掴む。
逃げ場を奪い真正面から向き合うと、バクは真剣な顔で宣言した。
「リナリーさんが好きだ!」
「………は…?」
驚いていたミアの顔が、急降下するように白けたものへと変わる。
「なんで今更ここでリナリー愛宣言?…ああもう最悪」
何故今更わかっていることを再確認されなければならないのか。
嫌がらせでしかないと、深い溜息しか出ない。
「そんなこと地球が丸いってくらいに、皆知ってるわよ。今更何。苛め?最低」
「それは事実だ、仕方ないだろうっ」
「だから何よ。わざわざ私の前で宣言すること?」
「だが、ミアのその目は好きじゃない」
「…さっきから本当、発言が謎なんだけど…やっぱり嫌味ねそれ」
「違う。お前のその目は好きだ。その髪も。昔から何かとコンプレックスだと言っていたが、俺は好きだった」
何かとバクは天使のようだと、幼い頃から髪や目を褒めていたミア。
しかしバクの目には、そんなミアの方が綺麗だと思っていた。
丁寧にケアされた肌触りの良い髪も、仕事時やプライベート時で多彩な色を見せる瞳も。
「だが今の俺を見るミアの目は、好きじゃない。好きに、なれない」
薄い壁を張って、感情を殺した目。
そこにバクは映っているが、その心には映っていない。
「そんな目にさせるくらいなら…リナリーさんへの想いを、切る」
ミアの目が、驚きに満ちた。