第17章 初恋がロリコン男である件について【バク】
「…ミアらしくない、褒め言葉だな…」
「あら、そう?これでも私、総合指揮官だし。それなりに見る目はあると思ってるけど」
照れ臭さからそう宣えば、軽く笑って返される。
その笑みが余りにも自然で、バクは目が離せなくなった。
久々に見た、ミアの笑顔だと思った。
「そうだな…特にミアには、幼い頃から色々見られているしな。今更取り繕う必要もないか」
ふ、とつられてバクの口元にも笑みが浮かぶ。
ほんの少し眉尻を下げた、支部長らしかぬ顔だ。
しかしミアにとっては慣れ親しんだ、昔はよく見かけていたバクの顔。
(…駄目ね)
進められていないと思ってしまった、先程の暗い感情を思い出す。
本当に進めていないのは、抱えてしまったその想いからだ。
こうして二人きりで言葉を交えれば、うっかりまた顔を出してしまいそうで。
明かりを持つ手を握り直すと、ミアは深く息を吸った。
「さ。つき合わせてごめんね。もう帰ろっか」
「もういいのか?」
「話す度に凹みはしないけど、ずっといて良い気分になれるものでもないし」
仕事もあるしね、と言って踵を返すミアの顔は、もう既に職場へと向いている。
「ハオ君に色々任せっきりになってるし…後でお詫び、しておかないとなぁ…」
肩を片手で揉みながら何気なく呟いたミアの後ろ姿に、バクの唇が結ぶ。
「…別に、いいではないか」
「? 何が」
やがてその口からぼそりと告げられたのは、バク自身も驚くものだった。
「ミアの選んだ部下だ、ハオは優秀な男だろう。偶には頼ってみたらどうだ」
「それは…そうだけど、でも今も迷惑をかけてるのに」
「一年に一度、私用で数時間席を外すことのどこがそんなに迷惑なんだ。あいつは迷惑になんて感じていないぞ」
ハオのお膳立てをするつもりはない。
しかしバク自身、ハオと言葉を交えてそれは感じていたことだった。
フォーの予想を鵜呑みにする気はないが、ハオは心からミアを尊敬し慕っている。
支部長に抗う程、上司の大切であろう用事を優先させた男だ。
迷惑など、到底感じていないだろう。