第17章 初恋がロリコン男である件について【バク】
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暗く広く、今は使われていない廃れた研究所で二人。
ランプとゴーレムの明かりだけで、その場で過ごす。
「見てこれ」
「なんだ?」
「これ、アルマとユウが盛大な取っ組み合いの喧嘩をしてできた罅割れなの」
「…あの時は10際程度の子供だっただろう」
「二人共、身体能力は凄かったからね。特にユウは容赦なくアルマをあちこち投げ飛ばしていたし」
被験体であったアルマとユウの部屋として使われていた、研究部屋。
その入口の横にできた罅割れに触れながら思い出すように話すミアに、バクは怪訝な表情を浮かべた。
何かと問うミアに、ぎこちなく彼の口が本音を語る。
「いや…普通に、話せるようになったんだな、と…」
「何言ってるの。もう9年前のことでしょ?いちいち話す度に凹んでたら、身が保たないわよ」
「…それは、まぁ、そうだが…」
「バクはまだ、あの時のことを話すのは辛い?」
首を傾げるようにして、下から覗き込み問われる。
思いも掛けず近い距離にドキリとしながら、バクはミアから目を逸した。
「辛くはない。と言えば、嘘だ。特に…僕は、あの時何もできなかったんだからな…」
彼が一人称を"僕"と名乗る時は、支部長としての覚悟をしている時。
次期支部長候補だったバク自身、研究に関与できなかったことに負い目を感じ続けていた。
「あの時はね。でもそれはトゥイさんの意向だったから」
「…母のその意向を押し切ってでも、参加するべきだった」
「そうかな…私は、そうは思わないけど」
「何故だ。そんなに僕は頼りなかったか?」
「そうじゃなくて。きっとトゥイさんは、"あの時"じゃなく"その後"のことをバクに任せたかったんじゃないかなって」
「その後…?」
「うん。あの9年前の出来事で一度崩壊したアジア支部を、ここまで立て直したのはバクでしょう?」
「それは、僕一人の力じゃない」
「でも、バクがいたからここまで皆歩んで来れた。私はそう思うよ」
何かと平団員にも弄られるバクだが、そのお陰でアジア支部内は明るい笑い声が止まない。
黒の教団のコムイと同じに、人を惹き付け、そして心を開かせる力が彼にはある。