第17章 初恋がロリコン男である件について【バク】
自分は此処で死んでしまうんだ。
こんなことなら死物狂いにでも訓練に励んでいればよかった。
もっとチャン家としての覚悟を持てばよかった。
もっと父様と母様を喜ばせればよかった。
もっとウォンの言うことを聞いて、フォーとも仲良くすればよかった。
もっと、もっと。
果てしない後悔の念に悩みながら、泣くことさえ体が放棄した。
"バクちゃん…みぃつけた"
その時拾った声は、いつも迎えてくれた声とは少し違ったんだ。
"……ミア…?"
ミアの持っていた明かりで、辛うじて見て取れた。
必死に捜してくれたんだろう、泥だらけの廃れた姿で、それでもミアはいつものように笑った。
"おうち、かえろ…?"
そう言って差し出してくれた小さな手が、俺には何より大きくて。
枯れた目に涙は浮かばなかったけど、目頭が熱くなって喉が詰まった。
声を出せずに咽く俺に、ミアは"大丈夫だよ"と声を掛け続けてくれた。
その後動けない俺の体を背負って、ミアは皆の所まで連れ帰ってくれた。
10歳にも満たない子供だから、最後には引き摺るような形で。
捜索中のゴーレムに発見された途端、慌しく出迎えた父様に抱きしめられて、それから母様にこれでもかと酷く怒られた。
自分のことだけじゃなく、周りのことを考えられる男になれと。
その時最初に浮かんだのが、ミアのことだったんだ。
一人で捜し回ったミアも両親に怒られながら、それでも俺が見つかって良かったと笑っていた。
そんなミアの疲れ切った泥だらけの笑顔を見ると、言い様もなく胸が締め付けられて苦しくなった。
その痛みに比べれば、訓練の辛さなんて比じゃないと思えたんだ。
…そうだ。
ミアは自分にはそんな頼もしい存在で、だから仕事上でも安心感があった。
それは機転が利くだとか人望があるだとか、そんな明確な理由じゃない。
だが漠然とした信頼をミアに寄せていたのは、そんな自分の心に浸み付いた感情だ。
取って付けたような理由なんてない。
だからミアの良さを語られようが、今更だ。
昔からミアの良さは、ちゃんと知っている。
「………」
…知っているんだ、からな。