第17章 初恋がロリコン男である件について【バク】
「風邪ですな」
「…ありえん…」
体温計を手に告げるウォンに見下ろされ、ベッドの中で思わず唸った。
嫌な予感を経て自室に辿り着いた頃には、すっかり体温も息も上がっていた。
本格的な風邪だな、これは…。
「最近、天候が悪い日も御座いましたから。お体に障ったのでしょう。胃に優しいものをご用意しますね」
「すまんな、ウォン…ゴホッ」
「バク様は風邪を治すことに専念して下さい」
治すも何も、移った原因は…恐らく、あれ、じゃないのか…。
脳裏に浮かんだのは、つい先日の夜の出来事。
初めて触れたミアの唇は、熱の所為かほんの少し熱く───
「ゲホッ!ゴホッ!!」
「おお。咳止めも貰ってきましょうっ」
───バタァンッ!
「よぉ!馬鹿は風邪引かないっつーのは嘘なんだな!!」
「…出てけ…」
夕日も沈み始めたその日の午後。
ドアを破壊しそうな勢いで、足音も荒く入ってきたのはフォーだった。
温くなった冷えピタが額から剥がれ落ちそうになるのを阻止しながら、本日何度目かの溜息をつく。
ウォンに粥と薬を用意して貰い摂取できたものの、さぁ寝入ろうとすれば入れ替わり立ち変わり見舞いにくる面々の騒がしいことと言ったら。
蝋花や李桂やジジや…お前達科学班は暇なのか?
弱った上司を面白半分に見に来る暇があるなら、身を粉にして仕事をせんか。
「ンだよ、見舞いに来てやったのに」
「お前のそれは見舞いとは言わん…いいから出てけ…」
「ハイハイ。それよか客連れて来たぜ」
「?」
フォーの他に誰かいたのか。
半ば朦朧とする意識で気付けなかった相手を捜せば、一礼して部屋に入ってくる人物がいた。
あれは…
「体調は如何でしょうか、支部長」
きちりとした挨拶にきちりとした服装。
礼儀正しく様子を伺ってくる、誠実そうな顔をした男。
「…ハオか…」
ハオ・イェン。
ミア自身が選んだ部下であり、その腕前は確かだと聞く。
「ミアさんから聞きました。酷い風邪だとか」
直属の部下なのだから、その口からミアの名を聞いてもなんら可笑しくはない。
しかし回転の緩んだ今の頭には良い刺激ではなく、的確な返事ができなかった。