第17章 初恋がロリコン男である件について【バク】
時間にすればほんの数秒。
バクが驚きで固まっている間に、さっさと顔を離して襟首を押しやりドアの外へと追い出した。
「なっあ、なッ!?」
まるで火にかけたやかんみたいに、次第に熱さを増したバクの顔が体温上昇と共に真っ赤に染まる。
それと同時に蕁麻疹がぶわりと顔中に表れた。
極度に緊張した時に出るその癖、本当に昔から変わらないのね。
じゃあ私のキスでも、緊張してくれたってことなんだ。
「なっなななな何、なに、を…!」
「そのくらい聞かなくてもわかるでしょ」
優しく手取り足取り教えたりなんかしないわよ。
もういい加減、この曖昧な立ち位置にはうんざりなんだから。
バクが変わらないなら、私が変わる。
ずっと踏み出せなかった足を、ようやく一歩踏み出した。
「じ、冗談…ッ」
「なんて言わないでね。誰が幼馴染兼上司におふざけでキスなんてするのよ」
「っ!」
ボン!
なんて音が立ちそうな程の勢いで、"キス"という言葉に反応したバクの顔から湯気が上がる。
そのうち倒れるんじゃないかって心配になりそうだから、さっさと切り上げることにした。
私の頭も別の意味でくらくらしてる。
これ以上虚勢は張っていられない。
「一人で来るなって意味、これでわかったでしょ。迷惑なの」
「なっ何故」
「私の想いに応えられないでしょ?」
「…っ!」
「生憎、私はバクみたいに一方的な片想いにそこまでエネルギーを費やせないの」
バクのリナリーへの想いとは、年期も違うから仕方ないのかもしれないけれど。
4歳で失恋を経験してから、新しい恋人は何度も作ってきた。
本気で好きだと思ったこともあったし、この人となら結婚してもいいなんて思えたこともあった。
それでも脳裏の隅でバクの顔がちらつく度に、結局は何も変わっていないんだと思い知らされた。
それならこの想いを捨てるしかない。
実らないものを持ち続けて前を向いていられる程、私はバクみたいに強くはなれない。
「辛くて、苦しくて、しんどいの。だからもう終わりにする」
「っ…ミア…」
そんな声で名前を呼ばないで。
そんな哀しそうな顔をしないで。
望むものを貰えないなら、私には全て痛いだけだ。